創包工学研究会の三浦秀雄会長に聞く 医薬品包装の適正品質
一般社団法人日本包装機械工業会は本年10月29日(火)から11月1日(金)までの4日間、幕張メッセ国際展示場で、JAPAN PACK 2019(日本包装産業展)を開催する。医薬品専門セミナーで講演する創包工学研究会 三浦秀雄会長に医薬品包装の適正品質について聞いた。
Q1. 国内の医薬品包装の品質にどのような課題があるとお考えですか。
有効性、安全性、安定性に関わる「本質的な品質」を見極めて、日本の過剰な部分と不足している部分を是正する必要があります。具体的には、外観品質が過剰に求められている一方で、海外では行われているような必要な試験が実施されていません。このような品質のバランスをとることで、優れた品質の製品を恒常的に供給するとともに、海外への進出が可能になります。講演ではこれらについて、最も流通量の多いPTPを中心にお話する予定です。
このようなことが問題になる背景には、国内の医療保険制度や、製薬産業が置かれる状況があります。日本の保険制度は財政的に厳しい状況になり、その解決策として毎年の薬価引き下げが実施されています。その結果、製薬企業は利益を確保するために、コスト削減が必要になっています。また、国内の人口は減少に向かい、市場が小さくなります。そうなれば製薬企業だけでなく包装関連の機械、材料メーカーも海外市場に進出する必要が出てきますが、現在の日本の品質のままでは打って出ることができなくなってしまいます。このような観点から、少しでも適正な品質を目指すための議論を始めなければいけません。
Q2. 過剰な外観品質が及ぼす影響について教えてください。
外観品質にこだわりすぎることはコストアップだけでなく、SDGsに反することになります。
例えば、PTPに使われているプラスチックを成形する際に、気泡などが入ることでフィッシュアイと呼ばれる異常が発生します。技術的にこれを完全に防ぐことはできません。材料メーカーはフィッシュアイが発生すると、その部分を切り取って前後を継ぎ合わせてから納品しています。しかし、フィッシュアイは医薬品の本質的な品質には何も影響を及ぼしません。つまり、製品として使えるものを手間と時間をかけて取り除き、捨てていることになります。そのほかにも、PTPの材料に繊維くずが入ったものや、バーコードの印刷にわずかな欠陥があるものなども不良品とされています。もちろん、生体由来の物質が入っていたり、バーコードが読み取れないレベルのものは別です。しかし、ここで示したような欧米でも許容されていて問題が起こっていないものまで不良品とする必要はありません。これは、材料メーカーの疲弊を防いだり、資源の無駄遣いを防ぐ意味もあります。SDGsにある廃棄物削減の考え方を取り入れて、許容できるものはすべき時代に来ています。
Q3. 強化すべき品質とはどのようなものでしょうか。
適正な品質を目指すために強化しなければいけないこともあります。ドイツには製薬企業も加わって作成した業界基準があります。それとの比較で具体例を述べると、PTPはアルミとプラスチックを接着するためにヒートシール剤を用いますが、ドイツの業界基準ではこのヒートシールの成分を同定することが定められています。また、両面アルミは成形の際にクラック(ひび割れ)が発生する可能性があるため、一定の圧を加える試験があります。しかし、いずれも日本では行われていません。一方で、海外では不良品にならないPTPのへこみが、日本ではクレームになるため、厳重に排除されます。過剰な部分も強化すべき部分も、根本は同じで、本質的な品質を見極めて是正していくという姿勢が必要です。
Q4. 適正品質達成のために必要なことを教えてください。
規格をしっかりと示すことが必要です。創包工学研究会では最終的にはその規格案のようなものを出したいと考えています。PTPでいえば、生体由来のものの混入は大きさにかかわらず不良ですが、それ以外のものであればどのサイズまで許容されるのかを示したいと考えています。こういったものを示さなければ、製薬企業の高い要求や、材料、検査機メーカーが高い外観品質を実現するための開発に進むことを止められません。
外観品質に関する問題点が多くなりましたが、重要なのは「有効性、安全性、安定性に関わる本質的な品質」を保証するために、締めるところは締める、緩めるところは緩めるということです。
さまざまな立場の間に出来上がった関係性があるので、このようなことは声をあげにくく議論されていません。しかし、日本の保険制度の維持や、医薬品とその周辺産業が今後も生き残っていくためには解決しなければならない課題です。今回の講演がこれらの問題について話し合うきっかけになることを願っています。
※三浦氏は、10月31日(木)15:55〜16:45に講演予定。