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無菌環境への資材搬送に求められる汚染管理戦略
急速除染ステーション(RDS)の活用と導入上の留意点
ケルバー・ジャパン
2023年に施行された改訂EU GMP Annex1では、無菌医薬品製造における品質保証の考え方が大きく見直された。従来の設備や工程単位の管理に加え、製造プロセス全体を対象とした科学的かつリスクベースの汚染管理戦略(Contamination Control Strategy:CCS)の構築が求められている。製造業者は、原材料の受入れから製品出荷に至るまでのあらゆる工程を対象として、潜在的な汚染経路を特定し、そのリスクを評価・管理しなければならない。
こうした中、長年にわたり無菌製造工程の重要なリスクポイントと考えられてきたのが、Grade A/ISO 5環境への資材搬送である。ツールや消耗品、測定機器、予備部品などを無菌環境へ搬入する工程では、汚染リスクを低減しながら、一貫性、再現性、トレーサビリティを確保することが重要となる。こうした要求に対する有効な選択肢の1つが、過酸化水素蒸気(vH₂O₂)を利用した急速除染ステーション(Rapid Decontamination Station:RDS)である。
本稿では、RDSの基本的な仕組みと活用方法、さらに導入時に考慮すべき積載条件、材質適合性、バリデーションなどのポイントを紹介する。
■資材搬送を再現性のある工程へ変えるRDS
Franz Ziel社のRDSは、アイソレータや無菌充填設備へ資材を搬送する前に、資材表面の除染を迅速かつバリデートされた条件下で実施する密閉型チャンバーである。除染された資材は、RTP(Rapid Transfer Port)などの搬送インターフェースを介して、無菌環境を維持しながらアイソレータなどの無菌設備へ搬送される。
RDSの中心技術となるのは、過酸化水素蒸気(vaporized Hydrogen Peroxide:vH₂O₂)を用いた除染である。vH₂O₂は、芽胞を含む広範な微生物に対して高い除染性能を有し、無菌医薬品製造分野において広く採用されている技術である。
RDSでは、このvH₂O₂を密閉空間内に均一に供給し、規定された条件下で作用させることで、資材表面の微生物学的リスクを低減する。従来の手作業による表面除染や薬液ワイピングを主体とした工程と異なり、RDSは高度に自動化されたシステムである点が大きな特徴である。
チャンバーの完全性試験、過酸化水素濃度の制御、温度・風速の管理、除染サイクルの実行およびエアレーション工程までを自動的に実施し、工程データを電子的に記録する。これにより、ALCOA+に代表されるデータインテグリティ要件への対応や監査・品質保証活動に必要なトレーサビリティの確保にも寄与する。


■除染性能を左右する積載条件と材質適合性
除染サイクルの運用面においても、RDSには一定の優位性がある。適切な積載条件やエアレーション工程を設定することで、45分未満のサイクル時間でバリデートされた除染を実現できる場合もある。これは、製造現場において大きなメリットとなる。特に多品種少量生産やバッチ切替えが頻繁に発生する施設では、迅速な資材搬送が生産効率の向上に直結するためである。
一方で、バリデートされた除染性能を維持するためには、資材配置や材質適合性に対する慎重な検討が不可欠である。例えば、チューブ類やフィルターアセンブリ、環境モニタリング機器など、複雑な形状を有する資材では、除染剤が均一に接触できるレイアウトを設計しなければならない。資材を平置きするよりも、吊り下げることで影となる部分を減少させ、均一な曝露を実現できる場合が多い。
また、プラスチック部材やフィルム材料、電子部品については、過酸化水素への耐性やアウトガス特性を事前に評価する必要がある。さらに、除染後の残留過酸化水素濃度を適切なレベルまで低減し、製品品質や作業者安全性を確保しなければならない。
■資材搬入だけではないRDSの活用
RDSは、資材搬入だけではなく、環境モニタリングサンプルの無菌搬出にも活用されている。採取したサンプルを速やかに培養試験へ供する必要がある場合、アイソレータの無菌性を維持したままサンプルを搬出できることは大きな利点である。
また、生産中に交換が必要となった予備部品や工具を迅速に除染して投入できるため、設備停止時間の短縮にも寄与する。一部の施設では、適格性評価済みの器具や消耗品を一時的に保管するGrade A保管エリアとしてRDSを活用し、アイソレータ内部のスペースを有効活用している事例も見られる。
■従来方式との比較から見るRDSの特徴
無菌環境への資材搬送には、オートクレーブ、手動ワイピング、電子線(E-beam)など、さまざまな方法が用いられている。それぞれに適した用途や特長がある。オートクレーブは、耐熱性資材に対して非常に有効であり、今後も無菌製造における重要な滅菌設備であり続ける。しかし、熱に弱い樹脂部材や電子機器には適用が困難である。
また、無菌工程への資材搬送では、アルコールなどを用いた手動ワイピングが用いられているが、近年求められる工程の標準化、記録の完全性、および人的介入の最小化という観点から、自動化された除染プロセスへの関心が高まっている。さらに、電子線(E-beam)システムは、特定用途では高い効果を発揮するものの、対象資材や設備構成に制約があり、多額の設備投資を必要とする。
これに対してRDSは、コンパクトな設計と高い汎用性を兼ね備えている。Rapid Transfer Port(RTP)を備えたアイソレータや無菌設備との親和性が高く、多種多様な資材に対応できるため、設備拡張や工程変更にも柔軟に対応できる。結果として、無菌性保証レベルを維持しながら作業効率を向上させることが可能となる。
■RDS導入を支えるバリデーションと技術支援
もちろん、RDSの導入に際しては、品質マネジメントシステム(QMS)との統合が不可欠である。バイオロジカルインジケーター(BI)を用いた除染性能評価、表面マッピング試験、リスクベースの積載条件評価などを通じて、十分なバリデーションを実施しなければならない。
また、搬入・搬出手順、異常時対応、保守点検などを含めた標準作業手順書(SOP)の整備も重要である。さらに、電子バッチ記録やアクセス制御機能、自動生成レポートなどを活用することで、Annex1が求めるトレーサビリティおよびデータインテグリティ要件への適合性を高いレベルで確保できる。
Franz Zielでは、RDSなどの無菌プロセス設備の提供に加え、自社のラボおよびAseptic Processing Technologiesの専門チームを通じて、ガッシングサイクル開発、材質適合性評価、バイオロジカルインジケーターの使用前適格性評価(Pre-Use Qualification)、非接触搬送の適格性評価(No-Touch Transfer Qualification)、洗浄テスト(Cleaning Studies)など、無菌プロセスの適格性評価・バリデーションを支援している。
■無菌環境への資材搬送をCCSの一部として管理する
改訂Annex 1への対応が進む中、無菌環境への資材搬送に対しても、より高度で再現性の高い汚染管理が求められている。
RDSは、vH₂O₂によるバリデートされた除染と自動化された運転管理を組み合わせることで、資材搬送工程の信頼性向上に寄与する技術である。RDSを単独の装置として導入するのではなく、積載条件、材質適合性、除染サイクルモニタリング、SOP、バリデーションまでを含めてCCSを構成する技術の一部として設計・運用することが重要となる。

※ケルバーとFranz Zielは、戦略的パートナーとして、日本市場においてRDSをはじめとする無菌プロセス設備の提案から、技術検討、導入、適格性評価・バリデーションまでを支援している。
※本稿で紹介した内容の一部は、2026年10月22日~23日に開催されたPDA無菌カンファレンスのランチョンセミナーにおいても紹介した。
関連する技術情報については、当日配布した「Insight Ziel No.3 日本語版」にも詳しく掲載している。
ご希望の方は、ケルバー・ジャパン(pharma.te.jpn@koerber.com)までご連絡いただきたい。
※本稿に関する担当窓口
長谷川 純(Jun Hasegawa)
E-mail:jun.hasegawa@koerber.com
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■お問い合わせ
ケルバー・ジャパン株式会社
〒104-0032 東京都中央区八丁堀1-11-12
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E-mail:pharma.te.jpn@koerber.com
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