医薬品原薬(API)の強制分解試験を科学的根拠に基づき効率的に設計するためには、実験開始前に化合物固有の反応性を理解しておくことが重要です。
構造が複雑な化合物では、ICH Q1A(R2)およびICH Q1Bで求められる各ストレス条件に対して、複数の官能基や分解経路が関与する可能性があります。そのため、「どのような分解が起こり得るか」だけでなく、「どの部位で分解が起こる可能性が最も高いか」を見極めることが試験設計の鍵となります。
Zeneth 10.2で新たに導入されたSoft Spots機能は、5種類の計算化学的構造記述子を用いてAPIの反応性を評価し、ICH Q1A(R2)およびICH Q1Bで求められる各種ストレス試験との関連付けを行います。これにより、実験に着手する前の段階で、構造に基づく合理的な試験設計を支援します。
強制分解試験における課題
ICH Q1A(R2)では、酸化、加水分解および熱ストレス試験が求められ、さらにICH Q1Bでは光安定性試験が要求されています。複雑なAPIでは、これらの条件ごとに複数の反応部位や競合する分解経路が存在するた、大量の予測結果が生成されます。分析担当者は、それらの情報を適切に評価し、優先順位付けを行わなければなりません。
したがって重要なのは、 「何が起こり得るか」 ではなく、 「何が最も起こりやすく、どの部位で起こるか」 を理解することです。
この理解により、一律的なストレス試験ではなく、化合物固有の反応性に基づいた試験設計が可能になります。
Soft Spotsとは
Soft Spotsとは、ストレス条件下で化学反応を受けやすい分子中の部位を指します。
Zenethは、各APIについて以下の5つの構造記述子を計算し、それぞれのストレス試験との関連を示します。
1. 結合解離エネルギー(Bond Dissociation Energy)
対象試験
● 試験
● ラジカル開始剤試験
得られる情報
● ラジカルによる引き抜きが最も起こりやすいC-H結合を特定
● ラジカル酸化の開始部位を予測
2. フクイ求核性指数(Fukui Nucleophilicity)
対象試験
● 過酸化物による酸化試験
得られる情報
● 最も反応性の高い窒素または硫黄原子を特定
● 酸化されやすい部位を予測
3. フクイ求電子性指数(Fukui Electrophilicity)
対象試験
● 酸・塩基加水分解試験
得られる情報
● 求核攻撃を受けやすい炭素原子を特定
● 加水分解が起こりやすい部位を予測
4. pKa / pKaH
対象試験
● 加水分解試験 酸化試験
得られる情報
● プロトン化・脱プロトン化が起こりやすい部位を提示
● 反応性や試験条件のpH設定に関する知見を提供
5. クロモフォアマッピング(Chromophore Mapping)
対象試験
● 光安定性試験(ICH Q1B)
得られる情報
● 分子内で最大の共役系を特定
● 光分解リスクの評価を支援
● 分解生成物の分析における検出上の影響も把握可能
これらの記述子は、API全体の反応性マップとして機能し、どの部位で分解が開始される可能性が高いかを可視化します。
試験設計へのメリット
Soft Spots機能により、分析担当者は膨大な予測結果を後から整理するのではなく、実験開始前に分解の可能性が高い部位を把握できます。 その結果、以下のようなメリットが期待されます。
● より効率的な試験計画の立案
● 不要な試験の削減
● ストレス条件や試薬濃度設定の合理化
● 安定性指示性試験法で分離すべき分解生成物の迅速な特定
規制当局への説明資料作成を支援
規制当局への申請資料では、強制分解試験の設計根拠を科学的に説明することが重要です。
Soft Spots解析は、特定の分解経路を優先的に評価した理由について、構造に基づく客観的な根拠を提供します。そのため、承認申請資料の分析パートにおいて有用な説明資料として活用できます。
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担当:増子 聡
Email: satoshi.mashiko@lhasalimited.org
TEL: 080-9804-1171
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