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ウイルスベクター開発・製造上の問題点とコスト課題解決へ
国内開発企業の視座も交え、多面的に考察

パセオン(Patheon by Thermo Fisher Scientific)

 パセオンは4月24日、サーモフィッシャーサイエンティフィックジャパングループの再生医療クリエイティブ・エクスペリエンス・ラボ(東京都港区)で、『rAAV製造の経済性を革新するースケーラブル開発によるコスト最適化戦略』を開催した。
 本セミナーでは、新規モダリティとして注目を集めるウイルスベクター開発の課題と実用化への道筋をテーマに、Thermo Fisher ScientificのIan Goodwin氏がウイルスベクター製造の最新動向について講演したほか、国内で遺伝子治療製品開発を手掛けるOnodera GT Pharma(旧:株式会社遺伝子治療研究所)の常務執行役員の尾山和信氏、同役員の吉沢創太氏を交えたパネルディスカッションも行われ、ウイルスベクターの開発・製造上の課題、CMC戦略、日米の開発環境の違いなどについて多角的な意見交換が行われた。

 

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          (左から)Ian Goodwin 氏、尾山 和信 氏、吉沢 創太 氏

■AAV市場は再び成長軌道へ

 ウイルスベクター、とりわけAAV(アデノ随伴ウイルス)製造におけるコスト構造と、その改善に向けたハイスループット型プロセス開発の重要性について解説したGoodwin氏は、まず遺伝子治療市場全体の現状を整理した。

 同氏によれば、2010年代後半から2020年代にかけて、遺伝子治療分野では前臨床候補の増加や治験の進展など大きな成長が見られた。一方で、ここ2~3年はVC投資の停滞や資金供給不足、有害事象発生などの影響から、前臨床候補の伸びは横ばい、あるいは一部後退傾向にあるという。

 ただ、2025年末から2026年初頭にかけては再び前向きな動きも見え始めている。米国では資金供給が増加し、第1相・第2相試験も着実に進展。Regeneronによる難聴治療法の承認など建設的な成功事例も増えつつあり、Goodwin氏は「こうした成功が新たなVC投資や次世代ウイルスベクター開発につながっていくのではないか」との見通しを示した。

 また、LNP(脂質ナノ粒子)やオリゴヌクレオチドなど非ウイルス型モダリティとの競争にも触れ、「AAVにしか実現できない治療領域は依然として存在し、特に超希少疾患領域では引き続き重要な役割を担っていくだろう」との認識を示した。
 

■AAV製造が抱える課題は複合的

 講演の中心テーマとなったのは、AAV製造が抱えるさまざまな課題である。Goodwin氏は、規制要件の変化、製造コスト、ウイルス力価、生産性、分析技術、人材、サプライチェーンなど多岐にわたる課題を挙げ、さらに規制環境も変化が大きく、企業単独で対応する難しさが増していると指摘した。そのうえでThermo Fisher Scientificでは、前臨床スクリーニングからGMP製造、コールドチェーン、治験物流までを含めたエンドツーエンドの支援体制を構築し、開発初期から商業化までを見据えたシームレスな開発支援を行っていると紹介した。

 その背景には、同社は、20年以上にわたり、AAVやレンチウイルスをはじめとするさまざまなウイルスベクターの開発・製造を支援しながら、GMP製造やCMC開発、規制対応に関する知見を蓄積してきた。こうした経験を基盤に、同社は複雑化する遺伝子治療開発の課題に対し、開発初期から商業生産までを見据えた包括的な支援を提供している。そしてGoodwin氏が繰り返し強調したのが、「製造コスト」と「薬価」の関係性である。現在上市されている遺伝子治療薬には、1回投与当たりの薬価が400万ドルに達する製品も存在する。同氏は「現在の薬価は持続可能ではない」と明言し、その背景には初期世代AAV製造プロセスの非効率性があると指摘した。

 従来、ウイルスベクター製造では、大規模なローラーボトルをはじめとする接着細胞培養ベースの製造法が広く用いられていたが、これらは商業スケールでの生産効率に限界がある。「旧世代の製造法を前提にしたままGMPへ進めば、後になって莫大なコストを抱えることになる。だからこそ、早期段階でプロセスを最適化することが極めて重要だ」と述べた同氏が解決策として提示したのが、「ハイスループット型プロセス開発」である。

 従来のAAV開発では、振とうフラスコを用いて限られた条件しか評価できず、最適化に1年以上かかるケースも珍しくなかった。これに対し同社では、Ambr 15やAmbr 250といった小型バイオリアクターを活用し、数週間で数百条件を同時スクリーニングする体制を構築しているという。講演では具体例として、細胞株、培地、細胞密度、プラスミド比率、トランスフェクション条件などをDoE(実験計画法)で最適化し、AAVベクター生産性を約5倍まで向上させた事例が紹介された。

 Goodwin氏は、「ハイスループット開発によって、従来なら1年以上かかっていた開発期間を数カ月へ短縮できる。適切なプロセス開発によって生産性と品質を向上させることが、最終的な薬価低減につながる」と語った(図)。
 

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            図 持続可能なプロセスの開発がもたらす影響

■開発初期から商業化を見据える重要性

 講演後のパネルディスカッションでは、尾山氏、吉沢氏、Goodwin氏が、遺伝子治療薬開発の実装に向けた課題を議論した。中心となったのは、研究段階から前臨床、IND、Phase 1へ進む過程で、多くの企業が直面するCMC・製造・規制対応の難しさである。

 Goodwin氏は、「最も難しいのは研究段階からGMPグレードへ移行する部分だ」と指摘した。大学やアカデミア由来の技術では、研究設備や研究用プロセスをそのままGMP製造へ移行することは難しいケースが多い。そのため、「できる限り早い段階から製造側と対話し、どのようにスケールアップし、GMPへ移行していくのかを設計しておく必要がある」と述べた。また、米国では初期段階から“GMP-ready”であることが強く求められる一方、日本では改善しながら次段階へ進む余地が比較的残されているとも説明し、日米の規制文化の違いを踏まえた戦略設計の重要性を強調した。

 尾山氏は、先駆け審査指定制度など加速的開発を目指す場合ほど、「初期段階からCMC readinessを高めておく必要がある」と訴えた。承認までのタイムラインが短縮される中、「治験薬製造段階で申請に近いレベルまで品質を高めておかなければならない」と述べ、特に、レイトフェーズが終わっているにもかかわらずCMCが間に合わない事態を避けるには、治験入り前からCMC戦略とレギュラトリー戦略を一体で設計する必要があるとした。

 吉沢氏は、研究段階から臨床用GMP製造へ移行する際には、「製法そのものが大きく変わることがある」と説明。「原材料試験やウイルス安全性評価、患者当たり投与量によって必要な製造量や製法の考え方そのものが変わる」とし、ここでも初期段階から商業化を見据えた設計の重要性を強調した。
 

■CDMOをいかに活用するか

 さらにCDMO活用についても議論が及んだ。吉沢氏は、Onodera GT Pharmaは2014年当時、AAVの開発・GMP製造対応CDMOがほとんど存在しなかったため、自社で製造基盤を整備してきた経緯を紹介。その一方で、現在はプラットフォーム技術やCDMOサービスが成熟し、「今から臨床入りを目指す企業にとっては有力な選択肢になっている」とした。ただし、「最低限、研究スケールの製造は自社で持つことが重要」とも指摘。自ら製造を経験することでプロセス理解が深まり、CDMOとのコミュニケーションや意思決定にも役立つと述べた。

 Goodwin氏も、「どこを社内で持ち、どこをCDMOやCROに委託するかは、各社の専門性や経験値を見極めながら判断すべき」とコメント。特に商用製造経験やIND経験の不足は、後々のタイムラインに大きな影響を与える可能性があるとして、それらを補う役割としてCDMOが活用可能であると示唆した。

 最後に尾山氏は、日本の遺伝子治療開発に必要な視点として、「長期的なストラテジー」の重要性を挙げた。「CMCは承認後、市販後も続いていくもの」としたうえで、「近くではなく遠くを見据えて戦略を立てる必要がある」と強調。「戦略を描く“軍師”と、それを実行する“将軍”の両方が必要」と述べ、人材育成の重要性も訴えた。
 

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 本セミナーを通じて浮かび上がったのは、ウイルスベクターの市場浸透を加速するには、開発初期から商業生産を見据え、CMCやレギュラトリー面で綿密に戦略を練ること、さらにそれを合理的なコストで実現する生産技術とパートナーを選択することの重要性であった。

 

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