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ベーリンガーインゲルハイムによるデータ駆動型意思決定の本質とは
バイオ医薬品の製造技術移管、データサイエンスのアプローチで品質トラブルを回避

Boehringer Ingelheim BioXcellenceTM

 製薬業界の世界的な市場でモダリティの多様化が進み、バイオ医薬品をはじめ製造や品質管理の難易度が高い製品群が増加している。また一方で、製薬企業は事業環境の変化に合わせ、柔軟性とレジリエンスを高めるために生産をアウトソースする動きも一般化しており、製造委託先への技術移管とその後のスムーズな生産で安定供給につなげることの重要性はますます高まっている。本稿ではこうした背景を踏まえ、グローバルネットワークにおけるバイオ医薬品の技術移管のポイントとして「データサイエンス」に着目したアプローチを紹介したい。
 具体的には、ベーリンガーインゲルハイムによる取り組みの事例で、「商用生産するバイオ医薬品を、ベーリンガーインゲルハイムのグローバルバイオ医薬品生産ネットワークの2拠点間で技術移管した」というプロジェクトの全体像である。同社のSenior Data ScientistのTobias Kutscher氏、Head of Digital Transformation UnitのAlexander Krauland氏及びHead of Unit, Process Engineering Cell CultureのHannes Schmidinger氏にプロジェクトの全体像や、バイオ医薬品製造におけるデータサイエンスの洞察の重要性について聞いた。

 

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      (左から)Hannes Schmidinger氏、Tobias Kutscher氏、Alexander Krauland氏

■このプロジェクトで直面した課題について教えていただけますか?

Schmidinger氏 商業製品の製造プロセスを、当社のグローバル生産ネットワーク内の別の拠点に移管する必要がありました。これは、供給リスクを軽減するためにベーリンガーと顧客が共同で戦略的に決定したものです。しかし、移管後、受け入れ先の拠点で製造されたバッチにおいて、予想以上に高いレベルの非フコシル化糖鎖が検出されました。これは、上流の発酵工程で生成される製品関連の望ましくない副産物であり、製品品質に影響を与える可能性があるため、迅速かつ正確に原因を特定することが不可欠でした。

 

■この問題にどのように取り組みましたか?

Kutscher氏 ウィーンに拠点を置く社内のデータサイエンスチームが、広範な製造データの収集、統合、及び標準化を主導しました。単位の標準化と時系列データの整理を行った後、自動特徴抽出のために「tsfresh」を使用し、812項目の変数からなる構造化データセットを作成しました。重要なステップは、高度な機械学習モデル、特にXGBoostを回帰タスクと分類タスクの双方に適用し、データを解析して最も影響力の大きい変数を特定することでした。このアプローチにより、浸透圧、アンモニア、グルコースが糖鎖レベル増加の主要因であることを特定することができました。機械学習モデルは、単純な相関分析を超えた、頑健でデータドリブンな洞察を提供しました。

 

■データサイエンスの洞察が実際の製造改善につながったのはどのような点ですか?

Kutscher氏 分析結果に基づき、「Overfeeding」が根本原因の1つであると疑いました。つまり、細胞の生存率が低いにもかかわらず、過剰な栄養が与えられていたのです。供給流量を調整することでプロセスを最適化し、非フコシル化糖鎖のレベルを大幅に低減させ、製品品質を安定化させることができました。この事例は、データに基づく意思決定が業務の具体的な改善につながることを明確に示しています。

 

図 機械学習を活用した主要影響因子の特定.png
               図 機械学習を活用した主要影響因子の特定

■製造環境にデータサイエンスを導入する際に重要だった点は何ですか?

Kutscher氏 製造データはさまざまなシステムから取得されるため、単に収集するだけでは不十分です。このプロジェクトでは、単位の統一や時系列データのフォーマット整備に注力し、意味のある比較が可能となるようにしました。tsfreshを用いてデータから関連する特徴を抽出することで、分析の精度と結果の品質が大幅に向上しました。これらの準備作業は、機械学習の力を最大限に活用するために不可欠でした。

 

■貴社内でのデータ活用文化はどのように発展してきましたか?

Krauland氏 従来、技術移管や製造は経験に大きく依存していました。しかし、この事例は、科学的かつデータ駆動型のアプローチが、より迅速で信頼性の高い問題解決につながることを示しています。業界がデジタル化とスマートなデータ活用に向かう中で、私たちは、この取り組みが、将来的に製造オペレーショナルエクセレンスをさらに実現し、Pharma 4.0へと前進していくための価値あるモデルになると考えています。

 

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                     図 アプローチの概要

■この取り組みから得た教訓と今後の計画について教えてください

Krauland氏 この経験から、「必要なデータはすでに揃っている—あとは賢く使うだけだ」という考えが強化されました。今後は、このデータ駆動型のアプローチと意思決定をすべての製造拠点に拡大し、プロセスの予測性、堅牢性、回復力を高めていく予定です。これにより、顧客は当社に製造能力だけでなく、高度な問題解決能力、リスク軽減の専門知識、そして不確実な状況下でも安定した製品供給を可能にする事業継続管理を期待できます。

 

■このアプローチは他の製品やプロジェクトにも適用可能ですか?

Kutscher氏 もちろん可能です。今回開発したツールや手法は製品固有のものではなく、広く応用できるよう設計されています。例えば、プロセス変数間の関係を可視化する能力は、他のプロジェクトでも品質向上やトラブルシューティングに活用できます。今後はこのフレームワークをより多くの製品に展開し、製造プロセスの堅牢性や製品品質の向上に貢献していく予定です。

 

■製薬企業が製造パートナーを選定する際に考慮すべき点は何だと思いますか?

Krauland氏 技術力やインフラも重要ですが、課題解決のためのソリューションを提供できる能力がますます重要になっています。予期せぬ問題が発生した際には、パートナーの対応力、分析力、技術的専門性が大きな違いを生みます。ベーリンガーインゲルハイムでは、データサイエンスに基づくアプローチにより、リスクを最小限に抑え、信頼性と予測可能性の高い成果を提供することで、外部委託製造における信頼できるパートナーとなっています。

 

■アウトソーシングを検討している製薬企業に伝えたいメッセージは何ですか?

Schmidinger氏 技術移管や外部委託による製造には、予期せぬ課題が伴うことがよくあります。ベーリンガーインゲルハイムでは、データサイエンスを活用して問題を早期に検出・解決しています。当社は単なる製造サービスを提供するだけでなく、真のパートナーとして、顧客が課題を乗り越え、安定的で信頼性が高く、柔軟でレジリエントな製品供給を実現できるよう支援します。信頼できる先進的な製造パートナーを求める企業との対話を歓迎します。

 以上、ベーリンガーインゲルハイムが行った機械学習によるオペレーショナル・エクセレンスの取り組みについて紹介した。3人の話からは、「データサイエンス」という観点からのアプローチと機械学習の活用が、複雑な製造環境において潜在的な影響要因を迅速に検出する上で極めて重要であることが示唆された。特に「必要なデータはすでに揃っている—あとは賢く使うだけだ」というコメントからは、同社のデータ駆動型意思決定の本質が端的に読み取れる。重要なのはデータの量だけではなくその使い方であり、データが適切に整えられていれば、予測モデルは迅速に構築・実装することができ、より効率的で効果的なオペレーションにつながるのだ。

 スマートなデータ活用の力を認識したベーリンガーインゲルハイムは、ビッグデータ活用をさらに推進するため、全製造サイトにわたるデータマネジメントの標準化を進めているという。この取り組みにより、製造プロセスが一層合理化され、その予測可能性と堅牢性が高まり、今後も高品質なバイオ医薬品を顧客に提供し続けることが可能になる。このことは、「プロセスこそが製品であり、その品質はプロセスの実行方法によって決定される」というバイオ医薬品のパラダイムを証明するものであるといえるだろう。

 


■お問い合わせ
Boehringer Ingelheim BioXcellenceTM
バイオ医薬品受託製造事業
TEL:03-6417-2149  
E-mail:bioxcellence@boehringer-ingelheim.com  
URL:https://www.bioxcellence.com
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