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難溶性薬物の可溶化を少ない原薬量で検討可能に
有機溶媒を用いたスケーラブルなスプレードライ技術の有用性
富士化学工業
2025年7月11日に東京ビッグサイトで開催された第 27回インターフェックスジャパン内のセミナーで、富士化学工業 原薬医薬営業本部 事業開発部 部長の森泉聖孝氏が講演し、同社がもつスプレードライ技術を中核とした難溶性薬物対応戦略と、スケーラブルな設備・機器による医薬品開発・製造支援体制を紹介した。
■原薬から製剤まで一貫した製造受託サービスを展開
1946年に創業した富士化学工業は、現在富山県内に3カ所の製造拠点を構え、原薬から製剤まで一貫した製造受託サービスを展開している。多様な設備でラボから商用生産まであらゆるスケールの生産が可能で、高薬理活性薬物にも対応できる体制を整えているほか、一部工場での自動倉庫完備や、原料仕込みから造粒・乾燥まで一貫生産できる連続造粒機の導入など、製造効率にも配慮した工場運営で顧客のニーズに応えているのが特長だ。
中でも同社の独自性が光る技術がスプレードライ(SD)になる。森泉氏は、「SDは、受託事業として50年以上の実績があり、FDAをはじめとする規制当局や国内外メーカーからの査察・監査対応経験も豊富です。ラボから試作、商用生産まで網羅する機器をラインアップするとともに、高薬理活性にも対応していますが、特にユニークなのが有機溶媒を使用した固体分散体製造に対応している点です。昨今難溶性薬物の問題を解決する技術としてSDが注目されています。エタノール、メタノール、アセトン、ジクロロメタン、 テトラヒドロフラン (THF)などを用いることができるスプレードライヤーがあり、さまざまな製薬企業様との取引実績を有しています」と説明した(図1)。有機溶媒系 SDの受託企業は世界にも数社しかなく、同社特有の強みを発揮できる領域になっている。

■難溶性薬物の課題を製造技術で克服
難溶性薬物は医薬品開発上のボトルネックになることが知られている。経口投与された薬物は、消化管内で溶出・溶解後、消化管膜を透過して、門脈から肝臓を経て全身循環血中に至ることで効果を発現するため、溶出性が低く膜透過性が悪ければ、薬物の持つポテンシャルを発揮することができないためだ。新薬メーカーは開発において、化合物が難溶性であるためにスクリーニングから外すということもあるといわれることから、森泉氏は「難溶性薬物の溶解性を改善できれば、創薬の幅が広がり、開発中止になる候補化合物を救える可能性がある。当社は、製造技術によってこの課題を解決したいと考えてアプローチしている」と同社の取り組み背景を語る。
製造技術による溶解性改善アプローチには、非晶質化(アモルファス)、塩の形成、微粉砕などがある。同社が主に取り組んでいるのは、薬物を非晶質化し、担体とともに固体分散体として製剤化する技術である。そして特に注目すべきターゲットとしているのが、BCS分類でClass 2に該当する「低溶解度・高膜透過性」を示す薬物群になる。これらは溶解性が改善されれば、全身への吸収性が大幅に向上する可能性があるためだ。
「非晶質化のメリットは探索の際に検討数が少なくなることと、化合物自体の結晶構造を変化させるため溶解性がかなり高まることが期待される点です。ただし、非晶質の状態は不安定で再結晶化の可能性があるため、当社は原薬と担体を溶解して噴霧乾燥を行い、固体分散体をつくる手法を取っています」と技術上の工夫を森泉氏は解説。そして、含量均一性の高い非晶質固体分散体の製造が可能で、スケールアップが容易などの利点をもつSD法に注力していることを説明した。
■多様な有機溶媒対応SD設備とスケーラビリティ
非晶質化によって難溶性薬物を可溶化するという、長年にわたり培ってきたSDの技術力を最大限に活かすのが、前述のとおり同社が持つ多様な設備・機器になる。同社はCSD(Closed Spray Dryer)と呼ぶ密閉系のスプレードライヤーを複数保有しており、有機溶媒を用いることを可能にしているため、結晶化しやすい薬物や高融点・熱に不安定な原薬にも対応できるのだ。
「当社はラボスケールからパイロット、そして商用生産まで一貫した設備ラインを持ち、短期間でのスケールアップが可能です。さらに、固体分散体におけるバイオアベイラビリティ向上や、製剤設計の柔軟性が高い点も特長です」と森泉氏は話す。
実際の試験データとして、ある難溶性原薬と複数のポリマーを用いた固体分散体の溶出プロファイルで、原薬のみと比べて最大70倍ほどの溶解度改善が見られた例がある。
また、ラットを用いたAUC(血中濃度–時間曲線下面積)の試験では、固体分散体のほうが顕著に高い吸収性を持つことが確認されているという。
■わずかな原薬量で検討を可能に
森泉氏はさらに、開発初期から後期までの同社のサポートフローのイメージ(図2)を示しながら、開発検討の具体的な進め方を語った。「R&Dの段階では、ミニマムで原薬1gから、ポリマー選択と処方最適化の検討を可能にしています。その後臨床フェーズに入った後も、開発の進捗にあわせたスケールアップや、上市を見据えての噴霧条件最適化、GMP製造など、大小さまざまなスケールの機器を駆使し、最低限の原薬量で対応しています」と述べた。
SDにおける品質特性は、給気温度、噴霧圧、フィード流量などのプロセスパラメータに大きく依存する。特に排気温度の調整によって粒子形状や比容積が変化し、その後の打錠性や溶出性に影響を与えるため、森泉氏が示したように、初期段階から適切な設計の検討ができることは開発上非常に重要になる。また、噴霧装置(アトマイザー)の選定も粒子径制御に直結する要素になるが、同社は2流体ノズルやロータリーアトマイザーなどを使い分けながら、最適な粒子分布を実現しているという。
森泉氏は、「開発段階において原薬は貴重で、無駄にすることはできないと思います。一方で商用生産を見据えると、初期から適切な条件を検討することが重要になるため、当社ではできる限り微量の原薬から検討をスタートできるように配慮しています」と、顧客の目線に立った対応方針にしていることを示した。

■さらなる生産効率向上への取り組みも継続
講演の最後には、同社が導入した連続造粒機についての最新情報も紹介された。現在、製品化のめどが立つものも出てきているという。「新たな連続造粒機では、粉体の定量供給から造粒・乾燥・整粒までの連続生産に成功しています。連続的なプロセスをより推し進めることで、生産コストの低減と効率化を両立できるとの期待感があるため、今後も引き続き検討を進めていきます」と森泉氏。
有機溶媒対応の SD受託企業という、世界的にも希少な存在でありながら、これまでの技術蓄積だけに頼ることなく、さらなる生産効率化に努めていく同社の姿勢を示して講演を終えた。

■お問い合わせ
富士化学工業株式会社
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