ファームテクジャパン 2025年3月号 紹介
創薬プロセスにおける暗黙知と AI・IT技術の活用
PHARM TECH JAPAN 2025年3月号掲載の『創薬プロセスにおける暗黙知と AI・IT技術の活用ー基礎編』の内容を一部抜粋して紹介します。
本稿では、創薬プロセスの各段階において、AIやIT技術がもたらす変革の概要を示す。特に、企業活動において暗黙知がどれほど重要であるかを強調する。熟年層の大量退職やそれに伴う技術損失などの課題が製薬企業において顕著であり、これに対応するための知識管理と品質管理システムの統合がいかに重要であるかを解説する。また、この暗黙知をいかにして形式知化し、企業全体で活用可能な知識に変えていくかを議論する。これが迅速な意思決定やプロセス間での知識循環を可能にし、AIとデジタル技術による加速化の基盤を形成する。
さらに、ICH Q10における医薬品品質システムの要点と品質リスクマネジメント(ICH Q9)の原則を導入し、それらが創薬プロセスにどのように適用されるかを概観する。このようなフレームワークを基に、知識管理の重要性とその具体的な実践方法についての基礎的理解を提供することを目指す。創薬プロセスにおける暗黙知の重要性を解説し、暗黙知の形式知化がどのようにプロセス全体の効率性と品質を向上させるかを議論する。さらに、SECIモデルを通じた知識管理、ICH Q10およびICH Q9のガイドラインの視点、そしてAI技術を含むデジタルツールの統合についても触れる。
(1)暗黙知の定義と役割
暗黙知は、熟練者の経験や現場での洞察に基づく知識であり、特に創薬プロセスのような高度に専門化された分野で重要な資源である。このような知識は、ターゲット発見から市場投入までの各プロセスに深く関与している。
(2)知識損失のリスク
近年、熟練者の退職や組織の再編により、重要な暗黙知が失われるリスクが高まっている。このような知識損失は、製薬企業の競争力やプロジェクトの成功率に直接的な影響を及ぼす。
(3)ICH Q10とICH Q9の視点
ICH Q10は、製品ライフサイクル全体にわたる効果的な品質マネジメントシステムの実現を目指しており、以下の3つの目的を掲げている。
①製品実現:医薬品の品質特性を一貫して実現するためのシステム設計。
②管理された状態の確立と維持:医薬品の製造プロセスが継続的に品質を保証する状態を維持。
③継続的改善の促進:データに基づく意思決定とプロセス改善を通じた品質向上。
ICH Q9では、医薬品品質のリスク管理が科学的知識に基づいて行われるべきであることを強調しており、特にリスクアセスメント、リスクコントロール、リスクレビューのプロセスが品質向上に重要である。
これらのガイドラインは、暗黙知の形式知化を体系的に進めるための基盤として活用でき、次に述べるSECIモデルと組み合わせることでさらに実効性を高めることが可能である。
(4)SECIモデルの適用可能性
SECIモデルは、野中郁次郎氏を中心に1995年に提唱された知識創造理論5)であり、暗黙知と形式知の相互作用を通じて知識が創造されるプロセスを説明するフレームワークである。SECIモデル(共同化、表出化、連結化、内面化)は、暗黙知を形式知化するプロセスを体系的に説明する。以下では、創薬プロセスの中で、このモデルがどのように適用されるかを示す。
• 共同化:研究者間での暗黙知の共有を促進。
• 表出化:暗黙知を形式知として明文化し、プロセスの透明性を向上。
• 連結化:個々の形式知を統合して新たな知識を創出。
• 内面化:新たに生成された知識を個々人が活用し、さらなる洞察を得る。
(5)AI技術と生成AIの役割
人工知能(AI)は、創薬プロセス全体において革新的なツールとしての地位を確立している。特に、生成AIは新薬の設計や開発において重要な役割を果たしている。生成AIは、大量のデータから新たな情報やパターンを創出する能力を持ち、創薬の各段階での効率化と精度向上に寄与している。
2024年のノーベル賞は、AI技術の進展とその科学への貢献を顕著に示している。ノーベル物理学賞では、ニューラルネットワークを用いた機械学習の基盤を築いたジョン・J・ホップフィールド氏とジェフリー・E・ヒントン氏に授与された。彼らの研究は、AIが複雑なデータパターンを学習し、予測や分類、生成(生成AI)を行う能力を飛躍的に向上させた。
一方、同年のノーベル化学賞では、タンパク質の構造予測にAIを活用したデミス・ハサビス氏とジョン・ジャンパー氏、そして計算的手法で新規タンパク質を設計したデビッド・ベイカー氏に授与された。特に、ハサビス氏とジャンパー氏が開発したAlphaFoldは、アミノ酸配列からタンパク質の三次元構造を高精度で予測するグラフニューラルネットワークモデルであり、50年以上にわたる創薬・科学界の難題を解決した。
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