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QbDに基づく細胞製剤の製造とは?
ビジネスエンジニアリング

 

 ビジネスエンジニアリング株式会社は2024年2月20日、東京都内のJPタワーホール&カンファレンスで、「ヘルスケアの未来をともに創る」と題し、ライフサイエンス産業向けイベント「BE:YOND FOR LIFE SCIENCE」を開催した。基調講演では、株式会社サイト-ファクト 代表取締役の川真田伸氏、サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループ バイオサイエンス事業部 ビジネスディベロップメント マネージャーの荻田伸夫氏、シンフォニアテクノロジー株式会社 メディカルエンジニアリングセンター 事業企画グループ 担当部長の細谷昌樹氏が登壇。細胞製剤の産業化に向けた取り組みや今後の展望などについて講演を行った。
 

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■製造段階で品質を担保するのがQbD

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  川真田 伸氏

 川真田氏が代表取締役社長を務めるサイト-ファクトは、CAR-T細胞の製造などを行っていた神戸医療産業都市推進機構(FBRI)の細胞製造事業を引き継ぐ形で2023年4月に設立されたCMO/CDMO企業である。川真田氏はCAR-T細胞やiPS細胞などの製造経験を交えながら、Quality by Design(QbD)の考え方やそれに基づく自動細胞培養装置の開発、薬事開発の在り方などについて話をした。

 川真田氏はまず、細胞製造の現状について、「手作業や紙記録が非常に多く、産業化されているとはいえない。ロボットを使用して製造効率を向上させることはできているが、最終的な製品の品質を担保するためには、人による品質検査(照査)が必要になる点は変わっていない」と指摘し、ロボットの使用も含めたこの製造体制を、「Pharma3.0」と定義した。こうした状況を踏まえ、「細胞の製造にはもう少し考え方を変えた別のアプローチが必要ではないか」と問いかけた。そこで別の考え方として紹介したのが半導体業界である。半導体の製造では、昔から製造部門とQCが密接にリンクして製品がつくられてきたという。「単にモノをつくるだけでなく、つくっている最中から品質を担保しようという考え方がされている。こうした考え方を細胞製造にも応用できないかと考えた」(川真田氏)。

 川真田氏は、10年程前から東京エレクトロン株式会社をはじめとする数社と共同で自動細胞培養装置の開発を進めてきた。しかし、バイオロジーの知識と理解がないと装置を進化させるのは難しいと感じたという。例えばiPS細胞の培養でコロニーの選別作業をする際、当初は画像を基にAIで細胞の良し悪しを判定する技術を開発しようとしていたが、バイオロジーではどうすれば状態の悪いコロニーが発生しない培養ができるかということを考える。これはフグの養殖や野菜を生産する工場など、生き物という個体差のあるものの製造に共通していることだと川真田氏は説明した。フグは稚魚の段階では大きさや形がバラバラでも、1年半から2年程度タンクで養殖すると、同じような大きさ、形に成長する。野菜も状態をモニタリングしながら空調や与える栄養素などをコントロールすることで品質が担保される。「プロトコルを決めてパラメータが管理値に入っていることを確認することによって品質を担保できる。つまり実際に食べなくてもおいしいものができたということがわかる。これがQbDの考え方。細胞を含め、生き物の製造はQbDに基づいて行われる必要がある」(川真田氏)。

 

■QbDに基づいた自動細胞培養装置を開発

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  細谷 昌樹氏

 こうしたQbDの考え方に基づいて、シンフォニアテクノロジーとの共同で開発されたのが自動細胞培養装置「CellQualiaTM Intelligent Cell Processing (ICP) System」である(図1)。細谷氏は、本装置の性能や機能について説明した。自動細胞培養装置が備えるべき性能として、①微生物汚染のリスクを排除するために完全閉鎖系であること、②設定がシンプルで簡単に使用できること、③継代も含め全自動で動くこと、④プロセスモニタリング機能を搭載し、分析用のサンプリングもできること、⑤生産管理システムと接続できること、⑥細胞本来の性能が維持できること――の6つを挙げた。そのうえで、「原料となる細胞に対する規制当局の要求が厳しくなってきているという話も聞く。細胞がもつべき性能を本当にもっているのかを証明するために、製造データが取得できることは不可欠となるだろう」との見方を示した。なお、本装置は英国幹細胞バンク(UKSCB)からもその機能が評価されたという。

 品質を担保するためにはパラメータの管理が必要ということだが、重要なのはそのパラメータの設定が妥当かどうかである。川真田氏はこの点について、「パラメータが妥当かどうかは動物実験で薬効を確かめている。薬事開発で最も大事なのは、何に効くのかを常に抑えておくこと」と話した。

 例えば、QTPP(目標製品品質プロファイル)を担保するのはCQA(重要品質特性)、CQAを担保するのがCPP(重要工程パラメータ)といったように、それぞれが相関している。そのため、新しい材料や製造方法を取り入れた際にはプロセスパラメータが変わり、それが全体に影響を及ぼすことになるが、QbDに基づく開発では、何をつくるのか、何に効くのかを明確におさえておくことによって、ラボスケールから治験、商用生産、製造法の改善に至るまで、大きな変化があっても、管理値の中にあればよいということになる。川真田氏は、「こうした考え方をレギュラトリーに取り入れていくことが大事だが、そのためには製造に関する情報が電子化され、何を管理しているのかを示せることが必要」と強調した。また、川真田氏は国際細胞治療学会(ISCT)のトレーニングコースにおいて、こうしたQbDに基づく細胞製造について講師を務めていることにも触れ、「グローバルなサプライチェーンでビジネスを展開していくことも必要。日本の存在感を示していきたい」と語った。

 

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                図1 自動細胞培養装置「CellQualiaTM ICP System」の構成

 

■細胞製造をサプライチェーンも含めた形で見える化しコストを削減

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  荻田 伸夫氏

 川真田氏はCDMO事業を進めるなかで、コスト削減などの改善が求められることに触れ、「1つの結論は、紙をやめること」とし、「電子化することで、紙の使用量が減るとともに、QAの仕事量も圧倒的に減る。間違いも少なくなりコスト削減につながる。CDMOのビジネスチャンスはここにあるのではないか」と話した。

 それを実現するためサイト-ファクトでは、細胞製造をサプライチェーンも含めた形で見える化するシステム「CytoFactory 4.0」(CF 4.0)を開発している。CF 4.0はあらゆる製造機器や分析機器と接続が可能となっている。なお、CAR-T細胞の製造においては、サーモフィッシャーが製造機器や分析装置、原材料などを提供しているという。川真田氏は、「サーモフィッシャーなどのサプライヤーにお願いしたいのは、製造機器などの電子的な信号を規格化するということ。それによって、業界としてプラットフォームをつくっていきたい」と話した。荻田氏はそれを踏まえ、「製造データがしっかりと取得でき、製造工程を管理できるようにサポートしていきたい。そうすれば、細胞製剤の産業への課題である歩留まり率の低さ、製造人材の不足、品質管理の難しさといった課題も乗り越えていけるのではないか」と述べた(図2)。

 

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              図2 サーモフィッシャーが考える細胞製造の産業化への課題

 

■製造データと臨床データを連携する“Pharma 5.0”を目指す

 CF4.0は、製造所内の製造機器や環境モニタリング機器、検査機器などをすべてつなげることができるが、その得られたデータをメンテナンス記録と結び付ければ、施設の管理運営の計画もできるようになるという。これによって施設の維持管理費の削減も可能になる。川真田氏は、この状態を「Pharma4.0」と定義し、さらに製造所と病院をつなぐと「Pharma 5.0」になり、臨床データと連携した細胞製造ができる(図3)。リバーストランスレーショナルも容易になるという。

 リバーストランスレーショナルの例としては、FBRIでのCAR-T細胞製造の成功率が95%と、ノバルティス社の91%よりも高かったことが挙げられた。成功率を高くできた要因は、CAR-T細胞を製造する患者の選び方にあったという。CAR-T細胞の製造に成功した患者と失敗した患者を比較し、製造の成否に関わる要素を抽出した研究では、ベンダムスチンが投与されていた患者や血小板が少ない患者などでは製造の失敗率が高かったことが報告されている。こうした各要素について患者をスコアリングし、そのスコアをもとにCAR-T細胞製造が行えるかどうかを判断することで製造の成功率を向上できるという。このように製造現場で得られたデータを臨床に反映することができれば新しい治療法にもつながっていくと川真田氏は話した。

 

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                                       図3 Pharma 5.0のイメージ

 川真田氏は講演の最後に「細胞製剤はまだまだ未熟なモダリティ。治療成績の向上や新規薬剤の開発のためには、製薬企業、原材料提供企業、CMO/CDMO、医療機関が情報を交換できるようなエコシステムを形成することが必要である。そのためにも製造情報を電子化し、サプライチェーン・臨床情報と連結させることは必須。本講演で紹介したQbDの考え方やプラットフォームを、こうしたイベントなどを通じて推奨していきたい」との想いを語った。また、サイト-ファクト社では、2024年春から慶応義塾大学殿町タウンキャンパス内に分室を設け、今回紹介した自動細胞培養装置やソフトウエアを運用していくことも紹介された。

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  宮澤 由美子氏

 講演後、本セッションの司会を務めたビジネスエンジニアリング株式会社 取締役 ソリューション事業本部 副事業本部長の宮澤由美子氏は、薬事開発をQbDで捉えなおすことの効果を改めて聞くと、川真田氏は「QbDの考え方は、細胞製造でこそ大きな意味をもつ。日本がプラットフォームビジネスを展開するチャンスでもある。同じ言語、同じ考え方で業界としてプラットフォームを整えていくことが、世界に遅れをとっている日本にとっての勝ち筋であり、次の世代にもつながっていくものだと思う」と話した。

 

◎「BE:YOND FOR LIFE SCIENCE」イベントレポート概要はこちら

 


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