株式会社東レリサーチセンター
細胞外小胞医薬品の開発及び申請向けの品質評価サービスの開始について ~細胞外小胞の社会実装に向けた総合的な分析支援をご提供~
登録日:2025/03/27
更新日:2025/03/31
【要旨】
当社(以下、「TRC」)は、細胞外小胞(※1)の社会実装に向けた分析支援として、「細胞外小胞医薬品の医薬品申請向けサービス」を開始しました。
細胞外小胞とは、細胞が分泌する小胞(膜に包まれた小型の袋状の構造)で、タンパク質や核酸などの生体分子を運搬し、細胞間の情報伝達に重要な役割を果たします。近年、細胞外小胞をドラッグ・デリバリー・システムに応用した医薬品(細胞外小胞医薬品)の開発が進められていますが、厳格な医薬品申請の基準に対応した分析が可能な企業は少なく、医薬品申請に向けた分析体制の構築が急務です。そこで、TRCでは、細胞外小胞医薬品の開発及び申請向け品質評価サービスを開始し、細胞外小胞の社会実装に貢献します。
【背景】
細胞外小胞を利用した医薬品開発が急速に進められていますが、医薬品として上市するためには、厳格な品質確保のための分析が重要です。これらの分析は、申請資料の信頼性の基準などの規制下での分析という制約を受けますが、前例がなく、規制下での分析が現状、困難な状況です。TRCでは、人工的に合成したmRNA(※2)を体内に投与し、治療薬やワクチンとして用いるmRNA医薬品を初めとする新しいモダリティ(※3)に挑戦しており、このような状況を打破してきた経験を有します。TRCでは、まず細胞外小胞医薬品の申請向けの品質評価メニューを取り揃え、同時に主に研究・技術開発用途としての細胞外小胞の形態評価をメニュー化しました。これらメニューを通じて、細胞外小胞医薬品の上市に大きく貢献できると考えています。
【細胞外小胞医薬品の開発及び申請向けの品質評価サービスの詳細】
現在、細胞外小胞の臨床応用のガイダンスとして、一般社団法人日本再生医療学会が2024 年4月30日に発出した「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)」があります。本ガイダンスから以下の項目が必要となります。
●確認試験・定量: 細胞外小胞であることを確認し、その量を求める試験
●純度試験: 不純物の量を確認し、細胞外小胞の純度を求める試験
●力価: 細胞外小胞の量と実際の効果の関係をin vitro(※4)レベルで確認する試験
●示性値:これら以外の細胞外小胞の品質に関わる重要な値をモニタリングする試験
TRCでは、上記の試験項目に対する分析手法を用意し、医薬品申請に必要な基準である「申請資料の信頼性の基準」(※5)に対応した分析が可能です。
また、TRCではナノメートルオーダー(50~1000 nm程度;1 nmは1mの10億分の1)の分析が可能な「形態評価」のメニューを開発しました。細胞外小胞はナノメートルオーダーの非常に小さい粒子なので、細胞等の観察に通常使用される光学顕微鏡では分析が困難でした。しかし、この度メニュー化した手法により、細胞外小胞の一種であるエクソソーム(※6)に特徴的な脂質二重膜(※7)の観察や内部の詳細構造の把握、さらに細胞外小胞の硬さを評価できる弾性率測定などが可能となり、お客様の細胞外小胞の医薬品開発に貢献できると考えています。
【今後の展開】
今回、提供する品質評価サービスで細胞外小胞医薬品の医薬品申請や開発に大きく貢献できると考えております。しかし、分析は日進月歩ですので、さまざまな細胞外医薬品に対応できるようさらに分析メニューを拡充してまいります。今後も「高度な技術で社会に貢献する」という基本理念に基づき、より一層の技術水準の向上に努めるとともに、最新の分析サービスをいち早く提供し、お客様の課題解決を支援することで、健康の増進や生活の質の向上に貢献していきたいと考えています。
【用語説明】
※1 細胞外小胞:細胞が分泌する小胞(細胞内にある膜に包まれた袋状の構造。細胞中に物質を貯蔵したり、細胞内外に物質を輸送するために用いられる)のこと。細胞内のエンドソームと呼ばれる小胞から発生するものと、細胞膜から発生するものがある。細胞外小胞は、タンパク質や核酸などの生体分子を内包しており、血流等に乗って、別の細胞に取り込まれ、細胞間コミュニケーションに重要な役割を果たしている。
※2 mRNA(Messenger ribonucleic acid):メッセンジャーRNA(伝令リボ核酸)。塩基がつながった分子。細胞の中でタンパク質を合成するための情報が塩基の並び方として記録された設計図の役割を果たす分子。人工的に合成されたmRNAを利用したワクチン(mRNAワクチン)やmRNA医薬品の開発が進んでいる。
※3 モダリティ:低分子医薬、抗体医薬、mRNA医薬品、遺伝子治療といった治療手段のこと。
※4 in vitro: 試験管内実験という意味で、試験管や培養器内で細胞や菌などを培養して試験すること。
※5 申請資料の信頼性の基準: 薬機法施行規則第43条のこと。医薬品申請の資料として満たすべき条件であり、「正確性」、「完全性」、「網羅性」、「保存性」が要求される。この基準をクリアできない場合、最悪のケースとして医薬品販売の許認可が得られない可能性がある。
※6 エクソソーム: 細胞外小胞の一種でエンドソームと呼ばれる小胞から発生する。サイズは50-150 nm程度の小胞であり、脂質二重膜を有する。
※7 脂質二重膜: 細胞膜の基本構造で、リン脂質と呼ばれる脂質で二層になった膜のこと。エクソソームのような細胞外小胞の一種においても脂質二重膜を有するものがある。