医療機器が市場に投入された後も、安全性と有効性を継続的に確保するためには、市販後監視(PMS)が欠かせません。規制当局(EU MDRやFDA)もPMSを強く重視しています。本記事では、従来の苦情や有害事象の収集にとどまらず、ユーザビリティ/ヒューマンファクター(HF)の視点を統合することで、より高度で実効性のあるPMSを実現する重要性について解説しています。
従来のPMSは、臨床結果や技術的性能、不具合報告に主眼が置かれてきましたが、実際の現場ではユーザーと製品の相互作用に起因する問題が多く存在します。例えば、誤使用、説明書の理解不足、または使用環境との不適合などが、安全性リスクや効率低下の要因となります。これらは必ずしも正式な苦情として報告されない場合もあるため、従来の手法では把握しきれない課題が残されていました。
HFをPMSに組み込むことで、以下のような価値が得られます。
・使用エラーと製品故障の区別を明確化
・新たなクリティカルタスク(重要な操作)の特定
・ユーザビリティの問題が深刻化する前に早期発見
・ユーザーの生活や業務環境との適合性向上
これにより、単なる「何が起きたか」ではなく、「なぜ起きたのか」を理解できるようになります。その結果、リスク分析の改善、使用説明書(IFU)の改訂、ユーザーインターフェース(UI)の最適化など、具体的な改善活動につなげることが可能になります。
さらに、規制当局は、製品が市場投入後も安全かつ適切に使用されていることを継続的に示すことを求めており、HFを取り入れたPMSは規制対応の強化にも寄与します。結果として、企業にとってはリコールやCAPAのリスク低減、ユーザーにとっては安全性と使いやすさの向上という双方のメリットが生まれます。
また、実際の使用環境は時間とともに変化し、ユーザーの行動や認知も進化します。こうした変化を捉えるためには、従来のデータ収集だけでは不十分であり、ユーザビリティ調査、インタビュー、UX分析などの手法を併用することが重要です。これにより、ユーザーが説明書を誤解したり独自の使い方を編み出したりする「ユーザビリティ・ドリフト」といった現象も把握できます。
加えて、QRコードを活用したフィードバック収集や、UX指標の継続的な分析などを通じて、リアルタイムに近い形でユーザー行動を把握することが可能となります。これらのデータは、トレーニングの改善や次世代製品の設計にも活用できます。
このように、HFを統合したPMSは、多角的な視点から製品の実使用状況を把握する「リスニング戦略」として機能し、潜在的なリスクの早期検知と継続的改善を実現します。結果として、患者安全の向上とユーザー満足度の持続的な向上に貢献します。
【略語一覧】
FDA:米国食品医薬品局(Food and Drug Administration)
HFE:ヒューマンファクターエンジニアリング(Human Factors Engineering)
EU MDR:欧州医療機器規則(EU Medical Device Regulation)
PMS:市販後監視(Post-Market Surveillance)
IFU:使用説明書(Instructions for Use)
UI:ユーザーインターフェース(User Interface)
UX:ユーザーエクスペリエンス(User Experience)
CAPA:是正措置・予防措置(Corrective and Preventive Action)
【キーワード】
USA / MDR / Usability / HFE / Human Factors Engineering
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