東京大学とエーザイ株式会社
標的タンパク質分解技術の開発と創薬に向けた共同研究契約を締結東京大学薬学系研究科に社会連携講座「タンパク質分解創薬」を設置

国立大学法人東京大学

エーザイ株式会社

               

 国立大学法人東京大学(総長:五神 真、以下 東京大学)とエーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤 晴夫、以下 エーザイ)は、このたび、標的タンパク質分解技術の開発と創薬に向けた共同研究契約を締結し、社会連携講座「タンパク質分解創薬」を設置しましたのでお知らせします。研究期間は2020年10月1日から2025年9月30日までの5年間です。

 

 社会連携講座は、公共性の高い共通の課題について、東京大学と共同で研究を実施しようとする民間等の費用を基に設置、運営される講座です。

 「タンパク質分解創薬」講座は東京大学大学院薬学系研究科に設置され、国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部 内藤幹彦 前部長が特任教授として着任し、SNIPER等のタンパク質分解技術の開発とこれを用いた創薬研究を主導します。本研究において、同研究科が推進する世界最先端のユビキチン・プロテアソーム研究と、エーザイが培ってきた創薬科学に関する知見を融合することで、薬剤の標的となるタンパク質を分解する新しい技術を開発し、その技術を基盤とした創薬研究を推進します。また、これらの研究を通じて、この分野の次世代のリーダーとなる人材を教育養成します。

 

 タンパク質分解技術は、精密にデザインされた化合物が標的タンパク質とE3ユビキチンリガーゼを強制的に近接させ、生体内に備わっているユビキチン・プロテアソーム系を利用して標的タンパク質の分解を誘導する一連の技術であり、ケミカルノックダウンとも呼ばれています。本技術は、特定の酵素や受容体といった従来の標的だけでなく、これまで創薬への展開が困難とされてきた疾患関連タンパク質に対する薬剤を創出する基盤となる可能性があります。本技術の開発と創薬研究により、これまで治療選択肢が限られていた患者様に新たな治療選択肢を提供することをめざします。

 

以上

研究関係お問い合わせ先

  • 東京大学大学院薬学系研究科

    特任教授 内藤 幹彦

    Email: mnaito@mol.f.u-tokyo.ac.jp

報道関係お問い合わせ先

  • 東京大学大学院薬学系研究科

    庶務チーム

    TEL:03-5841-4719

  • エーザイ株式会社

    PR部

    TEL:03-3817-5120

<参考資料>

1. SNIPERについて

 SNIPER (Specific and Nongenetic IAP-dependent Protein Eraser)は、ユビキチン・プロテアソーム系を活用して標的とするタンパク質を分解する化合物です。この化合物は、標的タンパク質に結合する部位とE3ユビキチンリガーゼ(IAPs)と結合する部位を適切なリンカーでつなげた「ハイブリッド化合物」であり、その化合物デザインには高度な創薬化学および最先端の構造生物学が求められます。SNIPERが標的タンパク質とE3ユビキチンリガーゼ(IAPs)を強制的に近接させることで(①)、E2ユビキチン結合酵素上のユビキチンが標的タンパク質に転移します(②)。ユビキチン化された標的タンパク質は、プロテアソームに認識され、分解に至ります(③)。

 従来の低分子阻害剤は、標的酵素の活性部位に結合し、その機能を阻害することにより薬理作用を発現します。一方、SNIPERでは、上記の通り、標的タンパク質の分解により薬理作用を発現することから、従来の低分子阻害剤とは異なる薬理作用が期待されるだけでなく、酵素活性を持たないタンパク質を創薬標的とすることも想定されています。類似の技術にPROTAC (PROteolysis TArgeting Chimeras)やDegronimidが知られています。

                 

2. ユビキチン・プロテアソーム系について

 ユビキチン・プロテアソーム系は、不要なタンパク質の分解を司る生命現象の一つであり、細胞周期、転写制御、シグナル伝達など、生命の維持に関わる重要な働きを担っています。タンパク質分解タグであるユビキチンがE3ユビキチンリガーゼ等を介して不要なタンパク質に結合することでプロテアソームに認識され、タンパク質の分解に至ります。近年、がんや神経変性など、ヒトの主要な疾患との関連が明らかになってきています。

 

3. 東京大学大学院薬学系研究科について

 東京大学大学院薬学系研究科は、「医薬品」という難度が高く、かつ高い完成度が要求される「生命の物質科学」と、国民生活に直結した「生命の社会科学」を探求し、2つの科学の最終目標である「人間の健康」を最重要課題としていることが最大の特徴の部局です。明治6年(1873年)に第一大学区医学校に製薬学科が開校したことを発端とし、昭和33年(1958年)に東京大学薬学部として独立しました。以来、一貫して生命科学(ライフサイエンス)を対象としています。そしてそれぞれの研究者が先端的な研究を行うと同時に、創薬科学に新しい方法論を確立し、また世界的な創薬競争の激化の渦中において、これまでの学問の枠組みに囚われない新しい境界分野の研究領域を創成し、新しい発見を速やかに創薬探索に応用していくことを目的とした最高水準の研究活動を行っています。更にこれらの研究活動に裏付けられた教育活動により、創薬科学および基礎生命科学の発展に寄与する研究者、医療行政に貢献する人材、高度医療を担う薬剤師の養成を行っています。

  

4. エーザイ株式会社について

 エーザイは、患者様とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を企業理念としています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「神経領域」「がん」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患領域において、世界で約1万人の社員が革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。

 また、当社は開発途上国・新興国における医薬品アクセスの改善に向け主要なステークホルダーズとの連携を通じ積極的な活動を展開しています。

 エーザイ株式会社の詳細情報は、www.eisai.co.jpをご覧ください。