国立大学法人大阪大学
大塚製薬株式会社

医療関連事業
2022年4月15日

新規抗腫瘍抗体に関する
独占的ライセンス契約を締結

国立大学法人大阪大学(大阪府吹田市、総長:西尾章治郎、以下「大阪大学」)と大塚製薬株式会社(東京都、代表取締役社長:井上眞、以下「大塚製薬」)は、本日、大阪大学大学院医学系研究科が同定したCD98重鎖を認識する新規抗体R8H283について、大阪大学が大塚製薬に全世界におけるR8H283を利用した製剤の独占的な実施権を許諾する契約を締結しましたので、お知らせします。

R8H283は、大阪大学大学院医学系研究科の保仙直毅教授(血液・腫瘍内科学)らの研究グループで同定された抗CD98重鎖抗体です。CD98重鎖は広汎な組織に発現するタンパク質ですが、R8H283は多発性骨髄腫(以下、「骨髄腫」)に特異的な結合を示します。本年2月、動物モデルを用いた試験において、R8H283が顕著な抗腫瘍効果を示したことを発表しました。 (2022年2月 米国科学誌「Science Translational Medicine」および大阪大学プレスリリース)

本契約締結に伴い、大塚製薬は大阪大学に契約一時金および開発・販売の進捗に応じたマイルストン達成金、売上高に応じたロイヤリティを支払います。大塚製薬は、非臨床研究、臨床開発、製造および販売を独占的に実施します。R8H283を利用した製剤には、医療用医薬品の他、CAR-T遺伝子細胞治療製剤等の再生医療等製品も含まれます。

大塚製薬取締役 研究部門(兼)知的財産担当 周藤俊樹は「当社は、世界の人々の健康に貢献するため、独創的な発想や技術をもって革新的な製品開発の挑戦を続けています。2018年8月に大阪大学から導入したMMG49 CAR-T(開発コード:OPC-415)は現在臨床第Ⅰ/Ⅱ相試験に進んでいます。これに引き続き、このたび大阪大学から有望な新規抗体を導入できたことを大変嬉しく思います。今回の契約により、悪性腫瘍に対する新たな治療薬や再生医療等製品の開発につながることを期待しています。今後も、免疫分野、遺伝子・細胞治療を含むバイオロジクス分野での研究開発を推進し、未充足な医療ニーズに取り組んでまいります」と述べています。

大阪大学大学院医学系研究科 保仙直毅 教授(血液・腫瘍内科学)は「我々がこのたび単離したR8H283というユニークな多発性骨髄腫特異的抗体は、いわゆる抗体医薬だけでなくCAR-T細胞をはじめとしたさまざまな医薬に応用可能であり、また他のがん種にも応用できる可能性があります。それらを出来るだけ早く患者さんの元に届けることができるようにするために、今回の契約は大変重要であると思っております。今後も、しっかりとしたサイエンスに基づき、がんに苦しむ患者さんの治療に少しでも役立つ研究ができるよう努力してまいります」と述べています。

ご参考

R8H283について

大阪大学大学院医学系研究科の研究グループは、骨髄腫に発現するCD98重鎖に結合する抗体R8H283を同定し、骨髄腫細胞と正常血液細胞に発現するCD98重鎖の糖鎖修飾の違いがその骨髄腫特異性の原因である可能性を示唆しました。さらに、マウスを用いた実験において、R8H283の投与により、正常細胞が傷害されずに、骨髄腫細胞のみが特異的に排除されることを示しました。この研究成果は、2022年2月17日(日本時間)に米国科学誌「Science Translational Medicine」に公開されました。
(タイトル: Selective targeting of multiple myeloma cells with a monoclonal antibody recognizing the ubiquitous protein CD98 heavy chain)
詳細は下記の大阪大学プレスリリース(2022年2月)を参照ください。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20220228_1

CD98重鎖について

CD98重鎖は様々な組織で発現し、細胞膜上でCD98軽鎖とヘテロ2量体を形成することで、アミノ酸トランスポーターとして機能します。また、CD98重鎖は複数のがん種において高発現していることが知られています。

多発性骨髄腫

多発性骨髄腫は、骨髄の中で抗体を産生する形質細胞が悪性腫瘍化し、無秩序に増え蓄積する血液がんです。近年、治療選択肢が増加して生存期間が延長した一方で、未だに治癒は困難な疾患です。

CAR-T遺伝子細胞治療

悪性腫瘍の細胞表面に特徴的に発現しているタンパク質(抗原)を特異的に認識するCAR(キメラ抗原受容体)の遺伝子を患者由来のT細胞に導入した後、輸注することによりがん治療を行います。